個人事業主として事業を始めることも、法人として事業を始めることも可能です。ただし立ち上げにあたっての手続や費用、その後継続的に発生する税務や税金の負担などにも差があります。
個人事業主と法人を選択できる状況にあるのなら、それぞれの特徴と違いを理解してから決断すると良いでしょう。現在個人事業主として活動している方が法人成りするかどうかを検討する際にも着目しておきたいポイントです。
立ち上げの方法
事業内容によっては設備を準備したり店舗の準備をしたり、許認可を取得したりなど、やらないといけないことはありますが、その前提として事業主体が存在していなければなりません。
個人事業主の場合はその「個人(自然人)」が主体となりますので、最低限やるべきことといえば開業届の提出くらいです。税務署に、開業をしたことの届出を行うのです。
一方、会社を立ち上げる場合は「法人」が主体となります。法律上の制度として人格を与えられることにより存在が認められ、そのためには①定款の作成や②出資の履行、③設立登記といった所定の手続を行わなければなりません。
法人の方が費用は大きい
法人の場合、立ち上げをするための手続で費用が発生します。
株式会社なら定款の認証を受けるために3万円から5万円の手数料が発生しますし、電子定款ではなく原本を紙で作成したときは4万円の印紙税も発生します。
設立登記には登録免許税として最低6万円の負担は発生します。株式会社と合同会社では「資本金の0.7%」にあたる税額が発生し、株式会社なら最低でも15万円は納付しないといけません。
費用とは少し異なりますが、出資金も納めなければなりません。昔のように資本金の最低額(数百万円以上)の定めはないため1円の資本金でも設立は可能ですが、設立当初の運転資金を確保する意味でも300万円ほどは用意するのが一般的です。
経営判断や運営の方法
個人事業主の場合、経営者自身が事業主体であり、意思決定についてもその個人が決断できます。従業員がいる場合でも会社における役員とは異なりますので、事業者1人で重要な経営判断を下すことができるのです。
法人においても1人会社であれば実質意思決定の方法に差はありません。
しかし役員が複数人存在する組織として運営する場合、代表者であっても、1人で何でも決めることはできません。株式会社だとさらに、決定事項によっては株主の意見も聴かなくてはなりません。
法人の方が意思決定は大変
1人会社を除き、法人の場合は意思決定に関与する人物が複数人登場します。それだけ慎重に経営判断をすることができ、多くの知見を取り入れながらより高度な戦略を打ち立てることができる、ともいえますが、やはり負担も増えます。
取締役会や株主総会での決議などが求められ、1つの事柄を決めるのにも時間とコストがかかってしまうのです。
比較的事業規模が小さく、スピード感を持って方針決定をしていきたいのであれば個人事業主の方が活動しやすいかもしれません。ただ、事業規模が大きくなってくると個人事業主として続けるのが難しくなってくることもあります。
税金のかかり方や税務
個人事業主の場合、売上から経費等を差し引いて算出される利益は、その個人が受け取る所得として「所得税」の課税対象になります。
一方、法人の場合は「法人税」が課税され、税率など適用されるルールにも違いがあります。
さらに、必要な税務の内容にも差があります。例えば「貸借対照表」「損益計算書」などの決算書のほか、「株主資本等変動計算書」や「個別注記表」、「キャッシュフロー計算書」など、会社の種類や株式の上場等に応じて作成すべき書類が増えます。
また個人だと住民税について自分自身で計算をしたり申告をしたりする必要がありませんが、法人は住民税(「法人住民税」とも呼ぶ。)に関しても申告作業が発生します。
法人の方が小さい税負担で済むこともある
税務の負担は基本的に法人の方が大きくなりますが、法人の方が節税効果を高めやすいです。
これには大きく2つの理由があります。
- 経費計上できる範囲が法人の方が比較的広い
- 所得税の方が最高税率は高い
例えば経営者個人への役員報酬や家族従業員への給与、生命保険料などを経費にすることができたり、社宅を活用して節税効果が高めたりなど、工夫できる範囲が法人の方が広がるのです。
また税率に関してですが、所得税の場合は累進課税に基づき5%~45%の税率が適用され、大きな利益が出ているほど割合大きな税負担が発生します。しかし法人税では基本的に一律23.2%の税率が適用され、規模の小さい法人においては一定額まで軽減税率が適用されます。
そのため大きな利益が発生している場合、個人事業主ではなく法人の方が税負担を小さくできる可能性が高くなります。
信用の得やすさにも差がある
「信用」は事業者にとってとても重要なものです。一般消費者、他社から信用されていないと取引を始めることは困難で、商品・サービス等の提供をすることすらできません。
信用は数値化されるものではないため個人事業主と法人の差を明確に把握することはできませんが、一般的には法人である方が信用を得やすいと考えられています。
法人だと登記が必須で存在確認が取りやすいこと、資本金が確保されていること、組織化されていて運営が比較的厳格であることなど、いくつか理由は考えられます。
また、税務の負担が大きいことから多くの法人は顧問税理士を付けています。専門家と顧問契約を交わしていることである程度運営の適正性が担保されますし、この点も法人の信用力に関わっていると考えられます。
一概に大きな差があるとは言い切れませんが、個人事業主として活動をするのか法人として活動をするのか、当記事で触れたような違いにも着目しながら判断をすると良いでしょう。
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