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改正のあった「交際費の損金不算入制度」について解説

会社の経営をしている方、経理業務に携わる方は、交際費の取り扱いにご注意ください。損金として算入できる範囲が限られていますし、また、法改正によってその運用方法が変わることもあります。

2024年度の税制改正でもルール変更があったため、その変更点も踏まえてここで「交際費の損金不算入制度」を解説します。

交際費の損金不算入制度改正の概要

「交際費の損金不算入制度」に関して令和6年度の税制改正で変わったのは、次に掲げる点です。

  • 「損金不算入の対象となる交際費」から除かれる飲食費の金額基準が「1人あたり5,000円以下」から「1人あたり10,000円以下」へと引き上げられた
    ※2024年4月1日以後の支出分から適用される。
  • 「飲食費の50%を損金算入できる特例」および「中小法人が年800万円まで交際費を損金算入できる特例」の適用期限が3年間延長された
    ※2027年3月31日まで適用可能。

交際費についての基本ルール

特例等について詳細を説明する前に、交際費の基本ルールを把握しておきましょう。

まず「交際費」についてですが、これは得意先などの取引先との接待にかかる費用やその際にかかる飲食費(接待飲食費と呼んだりもする。)、さらには接待後のタクシー費用。そして贈答にかかる中元歳暮代なども含んだ費用のことをいいます。

取引を成功させ、継続していくためなどに支出する重要な費用ですが、無制限に損金への参入を認めてしまうと納税額を下げるため不正に交際費が使われてしまうおそれがあります。そこで交際費に関しては「損金不算入制度」が設けられ、基本的には損金として計上することが認められていません。

飲食費は一定額交際費から除くことができる

交際費は損金に算入できないのが原則ですが、次に掲げる費用については「損金不算入の対象である交際費」から除かれます(つまり損金算入ができる)。

交際費から除かれるもの備考
社外の人との飲食にかかった費用であって「1人あたり1万円以下」の飲食費※改正あり
従業員の慰安目的で行う旅行や運動会などにかかる費用福利厚生費として処理
カレンダーなどの物品を贈与するための費用広告宣伝費として処理
会議に際して用意する弁当や茶菓、飲み物などにかかる費用会議費として処理
雑誌や新聞、放送番組のために開かれる座談会等の費用取材費として処理

飲食費については従来「1人あたり5,000円まで」を損金算入できる運用だったのですが、法改正によりこの基準額が「1人あたり1万円まで」に増額されています。

ただし、以下の情報が記載された証憑などを保存しておかないといけません。

  • 飲食があった年月日
  • 参加者の氏名や関係性、数
  • 飲食費の額
  • 飲食店の名前と所在地
  • その他飲食費であることがわかる書類

一定限度のもと損金算入は認められる

交際費の損金不算入制度では、法人の区分に応じて異なる措置が設けられています。資本金の大きさで区分されており、措置の内容については法改正の影響を受けていますのでご注意ください。

中小法人(資本金1億円以下)の場合

資本金の額が1億円以下の「中小法人」は、他の法人区分よりも次のように優遇されています。

中小法人の交際費の取り扱い
以下のAとBいずれかの金額から「損金不算入額」を選択できる。
  A:ある年度において発生した交際費の額-飲食費の50%
※この飲食費は「1人あたり1万円」の基準を超えた分の合計額を指す。
B:ある年度において発生した交際費の額-年800万円

上のAを選択する場合、まず飲食費について「1人あたり1万円以下」の部分を除き(損金算入)、この基準を超えた飲食費を合計します。さらにその合計額の50%は損金算入。残りの50%と飲食費以外の交際費が損金不算入となります。

Bを選ぶ場合もまずは飲食費について「1人あたり1万円以下」の部分を除きます(損金算入)。そして残りの飲食費を含む交際費をすべて合計したうえで、800万円を控除し(損金算入)、800万円超の部分が損金不算入となります。
Bの方は計算がシンプルで、また、中小法人のみが選択できる方法でもあります。

大法人(資本金100億円以下)の場合

資本金が1億円を超える大法人(ただし100億円は超えないこと)の場合でも特例措置は受けられますが、中小法人のように損金不算入額を選択することはできなくなります。

大法人(資本金の額1億円超、100億円以下)の交際費の取り扱い
以下の金額が「損金不算入額」。
  ある年度において発生した交際費の額-飲食費の50%
※この飲食費は「1人あたり1万円」の基準を超えた分の合計額を指す。

年800万円までの交際費を損金算入することはできず、飲食費の50%を差し引いて損金不算入額を計算します。

大法人(資本金100億円超)の場合

上で紹介したどの法人にも該当しない大法人では特例措置が使えず、その年度で支出した交際費のすべてが損金不算入額となります。

大法人(資本金の額100億円超)の交際費の取り扱い
ある年度において発生した交際費全額を損金不算入
※飲食費のうち「1人あたり1万円まで」の部分は除く。

ただし、飲食費「1人あたり1万円まで」は損金算入できますので、それを除いたすべての部分が損金不算入です。

法人税の計算方法|会計上の利益に対する税務調整や税率の適用について

法人のする事業活動により儲けが出たときは、法人税の負担も発生します。個人における所得税に対応するものですが、税負担の大きさや計算方法は異なります。

細かいことは税理士にお任せいただければと思いますが、おおよその負担や課税のされ方については知っておいた方が良いでしょう。

法人への課税の基本

税金を納める方法には①申告納税方式と②賦課課税方式の2つの方式が挙げられます。

  • 申告納税方式:納税義務者自身が税額の計算を行い、申告期限までに申告書を提出し、納付を行う方式
  • 賦課課税方式:課税庁が納付税額を具体的に納税義務者へ賦課する方式

法人税や消費税が①に該当し、固定資産税や不動産取得税等が②に該当します。

法人税に関しては「ある事業年度における会社の儲け(所得)に対して課される税金」であると説明ができます。そこで法人税の大きさを調べるには、まず儲けの大きさを正確に把握するところから始めなくてはなりません。

これはつまり「所得」の計算を意味します。会社が決算業務を通して作成した損益計算書の「当期利益」がベースとなりますが、この利益の大きさをそのまま使うことはできません。というのも、損益計算書においては“収益-費用=利益”という考え方をするのですが、税務上は“益金-損金=所得”という考え方をするためです。

収益と益金、費用と損金はそれぞれ共通する部分がとても多いですが、必ずしも一致するわけではありません。異なる部分が含まれていることもあるため、その分を調べて調整しないといけないのです。

法人税を計算する流れ

法人税については、会社の利益計算に加減の調整を行った上で、算出された法人の所得に対し税率を乗じ、納付額を把握することができます。そこで次のような流れに沿って計算を進めていきます。

  1. 企業会計に基づく利益を調べる
  2. 税務会計に基づく所得となるよう税務調整を行う
  3. 調整後の所得に税率を乗じて「法人税額」を算出

会計上の利益と税務上の所得のずれについて

企業の利益計算は、企業経営を前提にしています。そして簿記・会計の処理方法は、あらゆる企業で常に一致しているわけではありません。
これに対し法人税の所得計算は、納税の平等の立場に基づいて規定されています。納税義務者間に不平等が起こらないように配慮してルールが策定されているのです。

例えば減価償却費は、会計上固定資産の耐用年数を合理的に見積もって損益計算書の費用として処理しますが、法人税法上はあらかじめ固定資産の耐用年数を定めており、法定の耐用年数にて償却計算することが決まっています。

そのため、会計上の耐用年数と税務上の耐用年数が同じであれば問題ないですが、耐用年数が異なっている場合は利益をそのまま法人税における所得として扱ってしまうと、企業間の納税状況に不平等が生じるおそれがあるのです。

税務調整の4つのパターンについて

利益と所得のずれを調整する作業は「税務調整」とも呼ばれ、4つのパターンに大別することができます。

税務調整の種類
益金算入・所得に加算する調整のこと
・「無償譲渡」など、企業会計上の収益に計上されないものの法人税法上は益金にするものを算入する
益金不算入・所得から減算する調整のこと
・「受取配当金」など、企業会計上の収益に計上されるものの法人税法上は益金にしないものを不算入とする
損金算入・所得から減算する調整のこと
・「繰越欠損金」など、企業会計上の費用には計上されないものの法人税法上は損金にするものを算入する
損金不算入・所得に加算する調整のこと
・「減価償却資産の償却限度超過額」など、企業会計上の費用に計上されないものの法人税法上は損金にしないものを不算入とする

適用する税率について

税務調整を経て所得金額を求めることができれば、これに税率を乗じて法人税額を算出することができます。

適用する税率は、2024年時点で原則「23.2%」ですが、所得の大きさや法人の区分によって「19%」や「15%」が適用されることもあります。

※15%の税率は、特例による措置であり、中小事業者等に適用される。

区分所得金額のうちの区分原則特例
中小法人 (資本金1億円以下など)年800万円以下の部分19%15%
年800万円超の部分23.2%23.2%
中小法人以外の普通法人23.2%

出典:国税庁「No.5759 法人税の税率」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm

つまり、所得が800万円とすれば、原則通りに計算すると「152万円(800万円×19%)」。特例が適用されると「120万円(800万円×15%)」という値が算出されます。

法人税以外の税目として、地方法人税や地方税(法人住民税や事業税など)なども課されますが、本項では省略いたします。

申告は事業年度終了から2ヶ月以内に行う

税務申告は、原則として新事業年度開始日から2ヶ月以内にしないといけません。

この2ヶ月間に株主総会での承認の手続を行う必要があり、企業によっては取締役会等での「計算書類の承認」、監査役による「監査報告書の提出」も必要となります。この期間中、経理業務は忙しくなることでしょう。

そのうえ法人税や消費税の手続は複雑で、毎年のように改正が行われており、正しく計算・申告するのは簡単ではありません。経理担当、経営者としては法人税計算のあらかたを理解しておくことが望ましいですが、実際の計算や申告書の作成などは税理士に任せることをおすすめします。

役員報酬を決めるときに知っておきたい税金(法人税・所得税)との関係

役員報酬を決めるときは、法人税と所得税のバランスを考慮すること、そして適切な手続きによりこれを定めることを意識してください。

会社役員のする仕事への対価については、従業員に対する給与とは異なる取り扱いが必要ですので、問題が起こらないよう当記事にて大事なポイントを押さえておいてください。

役員報酬の大きさと税金の関係

まずは役員報酬の大きさが法人税や所得税にどう影響するのか、税負担について言及していきます。

役員報酬で法人税の負担は減らせる

会社が支払う法人税の大きさは、会社の利益の大きさに対応します。そしてこの利益の大きさは、売上と経費のバランスで定まり、同じ売上高に対して多くの経費を使っているときはその分利益は小さくなります。

役員報酬に関しては、一定の要件を満たす場合は、従業員に支払う賃金と同じように会社の税務上の経費として処理することが可能でこれを「損金算入」といいます。

損金算入された役員報酬はその他経費と同じく利益から差し引くことができますので、結果として会社の利益は減少し、法人税の負担も小さくなるのです。

しかし、節税ばかり意識していると会社の利益を圧迫してしまい、資金繰りが悪化する可能性もあります。

役員個人の所得税等がかかる

役員報酬を増やすことで会社の法人税を減らせる反面、役員個人にかかる所得税や社会保険料は大きくなってしまいます。

役員報酬は従業員が給与を受け取ったときと同じように「給与所得」として処理されますので、原則通り累進課税制度に従い所得が大きいほど大きな税率が適用されます。

そのため、会社の経営状況や役員個人の状況などを総合的に考慮し、法人税の節税効果と所得税や社会保険料の増加のバランスを考えながら適切な役員報酬を設定することが重要といえます。税金を意識するときは税理士に相談し、最適な報酬の額を検討しましょう。

金額を決めるときのポイント

役員報酬の額を決めるときはさまざまな要素を考慮すべきです。特に意識しておきたいポイントを下表にまとめました。

役員報酬の額を決めるときのポイント
毎月の利益や固定費の予測を立てておく毎月の売上予測、経費(人件費、家賃、光熱費など)を算出し、そこから得られる利益を把握。この利益に見合った金額に設定することが重要。また、固定費を差し引いた上で、会社に残る資金も考慮する。
法人税と所得税等のバランスを考慮する上記の通り、役員報酬を増やすと会社の法人税は軽減されるが、役員個人の所得税等が増加する。 法人と個人、それぞれが許容できる税負担やバランスを考慮して金額を定める。
業務内容に見合った金額にする役員の職務内容、責任、貢献度に見合った金額であるべき。同業他社や事業内容が類似する企業の役員報酬を参考にしながら、適切な金額を考えると良い。また、実態に見合わない不当に高額な役員報酬だと税務署が認めない可能性もあるため注意が必要。
従業員との格差への配慮役員や従業員、それぞれの仕事内容に見合った金額とすることは大事であるが、あまりに役員報酬との差が大きいと従業員の働くモチベーションが下がってしまう。従業員の昇給やボーナスがない状況下で役員報酬だけ増額されていると特に反感を買いやすいため要注意。

会社の状況は常に変化するため、一度定めた役員報酬も定期的に見直しましょう。その際、会社の将来的な成長を見据えること、役員のモチベーションを維持することに着目すると良いでしょう。

※ただし、原則として役員報酬の増減は事業年度開始後3か月以内の改定に限って認められますので、やむを得ない事情があり期中の変更を行わざるを得ない場合は事前に税理士に相談しましょう。

なお、役員のモチベーションを上げる方法には、役員報酬以外にも「ストックオプション制度」などのインセンティブ報酬を取り入れるというやり方もあります。

役員報酬を定める手続きが必要

株式会社においては、株主総会で役員報酬を決める必要があります。所有と経営が分かれている株式会社において役員が報酬を取り過ぎると会社所有者である株主の利益が侵害されるおそれがあるためです。

とはいえ多くの中小企業では経営者である取締役が株主を兼ねていることが多いでしょうし、取締役兼株主が1人というケースも珍しくありません。その場合は法人とはいっても自分1人ですべて決めることができます。

原則は株主総会での決議

役員とは別に株主がいるとき、役員報酬を決める原則的方法は「株主総会での決議」であることを知っておいてください。

経営陣だけで勝手に決めることは許されず、株主総会を開いてそこで承認を受けなくてはなりません。まずは役員報酬に関する議案を提出し、そこで“普通決議”にて可決されれば、その金額を支給することができます。

定款を使ったやり方もある

役員報酬を変更するたびに議決を取るのが面倒だという場合、「定款」という会社の根本原則を使って少し簡略化させましょう。

例えば定款に「すべての取締役に関する報酬総額の限度額」を定めておけば、その範囲内に限り、取締役会で具体的な金額を定めることができます。取締役会とは経営陣だけでの会議ですので、迅速・柔軟に報酬について話し合うことができるでしょう。

ただしこの限度額を変更するときは「定款変更」を要しますので、株主総会の“特別決議”が必要です。“普通決議”に比べて要件が厳しくなりますのでこの点も留意のうえ、定款を活用しましょう。

創業計画書について|記載事項や押さえておきたいポイントなど作成方法を紹介

創業計画書は、会社や事業の立ち上げの際に作る事業計画書のことです。事業の見通しを立てるため、金融機関から創業融資を受けるため、などを目的に作成します。特に創業段階では実績がなく不確定要素も多いことから、創業計画書は重要な存在といえます。

当記事では「創業計画書を作成するにあたって知っておきたいこと」をまとめましたので、始めての会社設立を検討している方、あるいは会社を立ち上げたばかりの方などは参考にしてください。

創業計画書とは

創業計画書とは、これから始める事業の内容、目標、戦略などを具体的にまとめた書類です。「ビジネスの設計図」とも言える存在です。

計画書には、事業のアイデアだけでなく、市場分析、競合分析、マーケティング戦略、財務計画など、多岐にわたる情報を盛り込みます。客観性・具体性のある内容とすることで、金融機関など外部の方にも当該事業の将来性や実現可能性を評価してもらいやすくなります。

どんなときに作成するのか

創業計画書は事業の見通しを立てるために作られます。今始めようとしている事業にはどのような課題があるのか、どれほどの売上高が見込まれて、どれだけの経費が発生し、どれだけの利益が出せるのか、こういった情報を整理していきこれからの予測を立てるのです。

事業がスタートしていませんのでどうしても想像に頼る部分も出てきてしまいますが、客観性のある数値・相場も参照して解像度を上げていくことで実現可能性の高い見通しを立てることもできます。そうすると当該事業で見直すべきポイントや注力すべきポイントなども明らかとなり、事業の失敗も少しは避けやすくなります。

また、事業の見通しがわかりやすく整理されることによって、創業計画書を自社の評価材料として使うこともできます。活用が想定される一番のシーンは「創業融資」です。融資を行う金融機関は、相手方の返済能力を審査してからでなければお金を貸すことはできません。返済したお金が約束通りに返ってこないリスクがあるからです。

特に創業段階だと安定して利益が出せない危険性が高いですし、今後どうなるのか、過去の実績がなく評価しづらいです。そこで創業計画書が役立ちます。不安要素が多いものの、創業計画書がしっかりと作りこまれていれば「この計画通りにいけば返済してもらえそうだ」という判断もすることができます。

創業計画書の作成方法

決まったフォーマットはありませんが、創業計画書を作成するときは次の事項を盛り込むよう意識しておきましょう。

  • 創業の背景や目的
  • 市場分析や戦略の内容
  • 必要な資金の内訳
  • 売上高や利益の根拠

創業の背景や目的を記載する

創業を検討している方についての職歴や具体的な実績、なぜ創業を決意したのか(動機)、そしてその事業が目的としていること、などを簡潔に記載しましょう。

特に審査の観点からは、長々と動機について記載する必要はありません。計画書に説得力を持たせられるような背景等があればその点をアピールしておきましょう。

市場分析や戦略の内容を記載する

これから始める事業ではどんな商品やサービスを取り扱うのかをわかりやすく示しましょう。そしてターゲットとする顧客、顧客にリーチする手段、競合他社との競争に勝つための戦略、などを具体的にまとめます。

その際は自社のことだけに目を向けたのでは不十分です。周りに意識を向け、他社がどのような活動をしているのか、昨今の市場動向はどうなのか、消費者の意識はどのように変化しているのか、これらの調査結果を反映させると説得力も増します。

必要な資金の内訳を記載する

資金調達を行う場合はただ単に「2,000万円が必要」と伝えるのではなく、その金額が必要な理由についても示す必要があります。

そこで内訳についても具体的に記載し、必要資金の過不足が生じないように留意してください。またその際は「設備資金」と「運転資金」に分けて考えることが大事です。融資の審査の観点からは、スモールスタートでまずは運転資金から備えて実績を積んでおくのが有効といえます。

売上高や利益の根拠を記載する

売上高の大きさ、経費の大きさ、利益の大きさについて明記しましょう。またその数字の根拠も示す必要があります。

これらの情報は、事業の見通しを判断するうえで特に重要といえます。

希望的観測で「毎月100万円くらいの売上は出るだろう」と考えるのではなく、なぜその金額になるのかを具体的に考えておく必要があります。立地の良さ、当該エリアにおける人口の多さや市民の属性、競合他社の状況なども踏まえて計算を行いましょう。

そうやって一つひとつの数字を考えていくと、一定以上の利益を出すために「日々どれだけの顧客が来店しないといけないのか」「客単価はいくら以上であるべきか」「人件費はいくらまで出せそうか」「家賃はいくら以下にしないといけないか」などが見えてきます。

創業計画書を策定するときのポイント

最後に、創業計画書の内容を考えるときに大事なポイントを整理します。以下の点を押さえて作成を進めていくと良いでしょう。

  • 具体的に書くこと
    (ぼんやりとした抽象的な表現は避け、具体的な数字や根拠を提示する。)
  • 分かりやすく書く
    (専門用語の多用は避けて誰にでも理解しやすい表現を使うこと、また、見やすさを意識した構成とすることも大事。)
  • 実現可能な計画を立てる
    (無理な計画、希望的観測に基づく計画は避け、実現可能性を意識して目標を設定する。)

1年間の税務手続きのスケジュール|3月決算法人を例に全体の流れを紹介

法人の経営をしていくには、売上・利益を出すための業務を遂行するだけでなく、税務にも向き合わなくてはなりません。そして税務手続きにおいては1年という期間で大きな区切りがつけられており、期限が定められている手続きもありますので全体のスケジュールを確認しておくことが大事です。ここでその流れを押さえておきましょう。

年間スケジュールの例

税務手続きに関して法人がしないといけない作業はたくさんあります。3月決算法人を例に、1年間のスケジュールを簡単にまとめたのが下表です。

1月 ・12月分給与の源泉所得税、住民税の納付
※特例適用者の場合:7月~12月分の源泉所得税を納付
・償却資産税申告書の提出と納付
・法定調書の作成、給与支払報告書の提出
2月 ・1月分給与の源泉所得税、住民税の納付
・償却資産税第4期分の納付
3月 ・2月分給与の源泉所得税、住民税の納付
・実地棚卸
・翌期の税務ポジションや事前申請有無の確認
4月 ・3月分給与の源泉所得税、住民税の納付
・償却資産税第1期分の納付
5月 ・4月分給与の源泉所得税、住民税の納付
・法人税、消費税、地方税の確定申告と納付
6月 ・5月分給与の源泉所得税、住民税の納付
7月 ・6月分給与の源泉所得税、住民税の納付
※特例適用者の場合:1月~6月分の源泉所得税を納付
・償却資産税第2期分の納付
8月 ・7月分給与の源泉所得税、住民税の納付
9月 ・8月分給与の源泉所得税、住民税の納付
10月 ・9月分給与の源泉所得税、住民税の納付
11月 ・10月分給与の源泉所得税、住民税の納付
・法人税、消費税、地方税の中間申告と納付
12月 ・11月分給与の源泉所得税、住民税の納付
・償却資産税第3期分の納付
・年末調整

※前期消費税額48万円超~400万円以下で、中間申告は年1回と想定。

上場会社等の法人は四半期決算を行うこともありますし、毎月月次決算を行うこともあります。その他、特例の利用や課税の規模によってスケジュールが変動することもありますので注意してください。また、こちらは3月決算法人を例にしていますので、決算月が変われば全体のスケジュールも変わってきます。

決算までの日々の業務

決算に関する仕事は決算月付近でのみ発生するわけではありません。忙しい時期とそうでない時期の差はあるかもしれませんが、年間を通して会計手続きを積み上げていかないと決算はできません。

そこで次の流れに沿って日々の業務を進めていきます。

  1. 仕訳業務
    決算対象となる年度分すべての仕訳を決算までに済ませておく必要があるため、日々の取引は日常的に記帳しておく。

クラウド型会計ソフトでは領収書データ等から仕訳を自動で登録するものもありますので、従来に比べて事務負担は軽減されています。

  • 試算表を作成
    日々の仕訳記録から総勘定元帳、仕訳帳が作られ、それらの情報と連動する形で試算表を作成。専用の会計ソフトを使えば仕訳記録が自動的に反映されていく。
  • 決算整理仕訳
    決算のために必要な、年度単位で行うべき仕訳(年払いとしてる費用などの処理)を行う。
  • 決算書を作成
    貸借対照表、損益計算書などを作成する。これら決算書をもとに確定申告および納付も行う。

記帳業務を溜め込まずに対応していけば、決算にかかる負担も軽くすることができます。顧問税理士に記帳代行を頼むこともできますが、自社で記帳を行うメリットは適宜自社の財務状況を把握し経営の意思決定に使用することができるという点になります。

弊所では、顧問税理士には適宜会計のチェックや税務アドバイスを求めつつ、自社の取引については自社で整理することが好ましいと考えております。

納税が必要な税金について

法人のする活動にはさまざまな税金が絡んできます。適切に申告や納付の義務を果たさなければならず、期限にも注意が必要です。

法人税・全法人に申告義務がありますが、利益が出ている法人に納税が生じます。
・期限は原則として事業年度の終了日の翌日から2ヶ月後
源泉所得税・給与や報酬等を支払う事業者が対象
・期限は給与の支払月の翌月10日、
消費税・一定以上の国内売上高がある事業者、インボイス発行事業者になった事業者が対象
・期限は原則として事業年度の終了日の翌日から2ヶ月後

また、地方税にも留意する必要があり、「法人住民税」や「法人事業税」、「償却資産税」などが発生します。

多くの税金は「事業年度の終了から2ヶ月以内」という期限にかかるため、決算月から2ヶ月以内に確定申告や税金の納付に対応できるよう備えましょう。申告期限の延長申請を行うことで延長することもできますが、期限に間に合わないときは延滞税や加算税等のペナルティの負担も加わってしまいます。

資金調達の種類と成功するためのポイント

土地や建物、機械、備品、車両など、事業を立ち上げるときや規模を拡大していくときには大きな設備資金が必要となります。また材料や商品の仕入れ、従業員への人件費などの運転資金も確保しておくことが重要です。

自己資金でカバーできた方が事業も安定させやすいですが、外部から資金を調達することで事業の成長を加速させることも可能です。この資金調達の方法にはどんな種類があるのか、当記事で紹介します。

主な資金調達の種類

あらかじめ蓄えておいた預貯金などの自己資金を使う方法や、金融機関からの借入、補助金や助成金の活用、出資、などの資金調達方法もあります。

それぞれの特徴は次のように整理できます。

資金調達の方法特徴
自己資金を蓄える・返済不要で資金使途の制限もない。
・立ち上げ当初の、経営が不安定な時期に返済による圧迫がない。
・銀行借入をするときの審査でも自己資金割合の大きさがかかわってくるため、必要な資金のうち3割ほどは用意できていると良い。
金融機関からの借入・毎月返済が必要。
・事業実績がないと審査に通るのが難しくなるが、創業時期に適した制度が用意されていることもあって、資金調達の手法としてはメジャー。
・日々の取引における決済でも利用することになるため、金融機関とは良い関係性を築いておくことが大切。
補助金や助成金の受給・開業や事業承継、新たな取り組み、就労環境改善など、特定の取り組みに対して一定額を受け取ることができる。
・返済は不要であるが、後払いが基本。
・原則として申請手続きのため、手間も大きい。
第三者から出資を受ける・投資家、ベンチャーキャピタルから出資を受ける。
・クラウドファンディングにより不特定多数から出資を受けることもできる。
・知名度や将来性があれば、現時点の純資産価値と比較すると多額の資金調達をすることができる場合もある。
・条件についても協議により自由に定められる。
・出資を受けることで創業者の保有持分が減少するため、出資を受ける際には慎重な検討が必要。
知人や親族からの借入・借り入れは金融機関との取引が一般的であるが、対応してくれる人物が身近にいればその方からお金を借りることもできる。
・金融機関ほど厳格な手続や審査が必要なく、返済計画などのも柔軟に受け入れてもらいやすい。
・約束通りの返済がなされない場合、関係性が悪化して私生活にも影響してしまう。

共通するポイント

資金調達をする方法には、上述の通りさまざまな種類があります。それぞれ必要な手続の内容や難易度、調達できる規模などに違いがあるものの、事前準備として「綿密な事業計画を立てておくこと」が共通する重要なポイントといえます。

「だいたいこれくらいあれば足りるだろう」「しばらく経てば売上も伸びてくるだろう」などとあいまいな予測しか立てていない場合、まず、いくら調達すべきかが明確にできません。

また、売上高や利益の大きさが根拠ある数字で計算できていないと、返済やリターンの見込みが評価されません。

特に他人の資金を当てにするのであれば、自社がどんな事業をして、何のためにいくら必要なのか、売上や利益はどれくらい出るのか、を明確にしておく必要があります。一般的にはこれらの情報を事業計画書としてまとめていきます。
わかりやすく説得的な事業計画書が作れていると、相手方からの信用も得やすくなります。経営者自身も今後の見通しが立てやすくなりますので事前に計画を策定しておくことの利点は大きいです。

自己資金を準備するときのポイント

必要資金のうちできるだけ大きな割合を自己資金で確保できている必要があります。資金が使いやすいだけでなく、将来借入など他の資金調達をするときの審査にも影響があるためです。

そこで業種にもよりますが、借入時には基本的に「必要資金の3割以上」を自己資金で確保しておきましょう。可能なら5割を確保します。

返済スケジュールが現実的であるかという点を事業計画書の作成時に検討した上で、余裕を持った預金状況になるように設定すべきです。

金融機関からの借入のポイント

「金融機関からの借入」は資金調達として一般的な手法です。借入にあたっては、事前に必要資金を把握しておくことはもちろん、金融機関の選択も審査に影響があるためよく考えて選ぶようにしましょう。金融機関により方針が違いますので、同じ事業内容・同じ事業計画書の準備をしたとしても、審査の通過率は異なります。

例えばメガバンクだと開業時点での少額融資に前向きでないケースも多いです。その反面、全国に支店があり利便性が高いことから預金取引の相手方としては適しています。

地方銀行は相手方によってサービス内容や借入に対する考え方の差が大きく異なります。活動拠点となるエリアの地方銀行をいくつか当たって、融資に積極的なところを探してみると良いでしょう。
また、一般にあまり馴染みはないかもしれませんが信用金庫や信用組合との取引も視野に入れてみましょう。地域の事業者に対する支援が充実しており、比較的規模の小さな事業に対する融資にも積極的であるケースが多いです。

創業融資なら日本政策金融公庫も検討

日本政策金融公庫は政府が株式を保有する政府系金融機関です。民間の金融機関とは異なる特徴を持っていて、創業期、創業して間もない事業者でも利用しやすい融資制度を多く展開しています。

一般的な借入だと3割程度を自己資金でカバーすることが求められていますが、日本政策金融公庫であれば「必要資金の1割」を要件としている融資制度もあります。

補助金や助成金を活用するポイント

補助金や助成金の支給を受けようとするのであれば、形式的な要件を確実にクリアすることが重要です。

借入や出資は相手方との交渉により成り立ちますので、ある程度自由度があります。しかし補助金や助成金は行政が相手方であり、所定の要件を漏れなくクリアすること、決まった期間内に申請を行うことなどに注意しないと調達ができません。

ただ審査基準は明確ですので、各種制度に詳しい専門家の協力も得ながら手続を進めていけば成功をさせやすくなります。

出資を受けるポイント

個人投資家やベンチャーキャピタル(出資を業務とする組織)に出資を求める場合、「企業の成長性」「事業の新規性や将来性」をアピールすることが重要です。

事業計画書にもその点をアピールする内容を組み入れましょう。

例えば借入だと「返済の確実性」が注視されるため、事業が安定して長く活動できること、着実に利益が出せることをアピールするように作成します。
一方、出資だと「自分たちが得られるメリット」に出資者たちは注目していますので、これからの展開や期待感のあるリターンを示す必要があります。借入をするとき以上に事業計画書を作り込む必要があるでしょう。

【所得税】青色申告とは?白色申告との違いやメリットやデメリットについて

フリーランスや個人事業主の方のように事業所得を得ている方、あるいは不動産所得を得ている方などは、確定申告を行う必要があります。この確定申告の方法として「青色申告」と「白色申告」の2パターンがあるのですが、それぞれ異なる特徴を持っています。いずれかを選択することができますので、当記事でその特徴を理解し、ご自身に合った適切な申告方法を判断できるようになっておきましょう。

青色申告とは

青色申告とは「帳簿付けを厳格に行う代わりにいくつか税制上の優遇が受けられる」という特徴を持つ申告方法です。日々の取引を決められた帳簿に記帳して、その記帳内容に基づいて申告することが求められています。
青色申告によって確定申告を行うには、一定要件を満たす納税者であって、さらに「青色申告で申告を行います」という旨の届出を事前にしないといけません。
この手続を行わない場合、自動的に申告方法は白色申告となります。

青色申告のメリット・デメリット

青色申告を選択する主なメリットは次の通りです。

青色申告のメリット
65万円の所得控除が使える・「青色申告特別控除」として最大65万円の所得控除が受けられる。 ・電子帳簿の作成または電子申告を行っていないときは控除額55万円、簡易記帳による場合は控除額10万円となる。
30万円未満の固定資産が全額取得時の経費になる・業務で使用するパソコンや備品等の固定資産のうち30万円未満の固定資産に関して、購入して使用開始するタイミングで全額が経費になる ・白色申告の場合は、固定資産の種類ごとに決まった耐用年数で毎年減価償却を行う必要があり、購入時に全額経費にすることはできない。
専従者給与の経費算入・家族を従業員とした場合の「専従者給与」を全額経費にすることができる。 ・白色申告では配偶者を雇用したときに最大の86万円の控除、その他の家族だと1人あたり50万円の控除が限度となる。
赤字の繰越し・事業から生じた赤字を3年間繰り越すことができる。 ・赤字になった翌年に黒字になっても、前年の赤字分を差し引くことで税負担が軽減できる。

一方、青色申告には「記帳が大変」という大きなデメリットもあります。

青色申告では、原則として複式簿記によって記帳を行わないといけません。各種帳簿の整備も必須です。会計処理の経験がない方にとってこれは大きな負担であり、心配材料でもあります。経理担当を雇って対応してもらうこともできますが、そうなると人件費が発生してしまい青色申告であることの節税メリットが薄れてしまうおそれもあります。税理士に依頼することや最近では直感的に沿往査できるクラウド型会計ソフトもありますが、やはりコストの問題を伴います。
このバランスを考慮することが大切なのですが、一般的には事業規模が大きくなるほどコストバランスは良くなると考えられます。また、今現在の規模が小さくても近い将来人数や売上の規模を大きくしたいという思いがあるのなら、青色申告を選択しておくと良いかもしれません。

また、青色申告を行う場合は、自ら税務署に事前の申請が必要という点を留意する必要があります。

青色申告を行いたい場合は「青色申告承認申請書」を、その申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合は、事業開始日から2か月以内)に所轄の税務署に提出する必要があります。
確定申告時期になって前年分の申告を青色申告で行いたいと思っても間に合わないため、事前に検討する必要があります。

白色申告のメリット・デメリット

白色申告のメリットは、青色申告のデメリットの裏返しで「経理業務の負担が小さいこと」と説明できます。
白色申告による場合でも記帳自体は必要ですが、その内容は家計簿・小遣い帳のような簡易なものでかまいません。高度な知識は不要で、電子帳簿の作成も必要ありません。
本格的に事業活動を始める方なら、従業員や税理士も活用しながら帳簿付けをしておきたいところですが、事業を始めたてでそれもごく小規模なものであれば白色申告のままにしておく恩恵もそれなりに大きいです。

ただし、青色申告のメリットとして取り上げた各種措置を利用できません。つまり「所得税の負担が比較的大きいこと」が白色申告のデメリットであると説明できます。事業規模・利益の規模が大きくなるほどこのデメリットも大きくなる傾向にあります。

どちらの申告方法にすべきか

「これからフリーランスとして活動を始める」「自営業を始めようとしている」といった方は、白色申告のままでいくのか、それとも青色申告を選択するのかの検討をしてみましょう。

それぞれのメリット、デメリットを考慮し、ご自身の状況と照らし合わせて最適な申告方法を選ぶのです。もし会計の知識を持っておらず、雇用や外注もせず自分1人で全業務に対応しようとしているのなら、青色申告は少しハードルが高いかもしれません。

一方で「大きな所得が見込まれる」「家族にも給与を払いたい」「赤字になる可能性も十分にある」といったケースなら、青色申告の選択も前向きに考えましょう。税理士に任せることでコストが発生しますが、今後のことを考えると青色申告とした方が良いかと思います。

個人事業主と法人|立ち上げ方法・運営方法・税金などの違いを比較

個人事業主として事業を始めることも、法人として事業を始めることも可能です。ただし立ち上げにあたっての手続や費用、その後継続的に発生する税務や税金の負担などにも差があります。

個人事業主と法人を選択できる状況にあるのなら、それぞれの特徴と違いを理解してから決断すると良いでしょう。現在個人事業主として活動している方が法人成りするかどうかを検討する際にも着目しておきたいポイントです。

立ち上げの方法

事業内容によっては設備を準備したり店舗の準備をしたり、許認可を取得したりなど、やらないといけないことはありますが、その前提として事業主体が存在していなければなりません。

個人事業主の場合はその「個人(自然人)」が主体となりますので、最低限やるべきことといえば開業届の提出くらいです。税務署に、開業をしたことの届出を行うのです。

一方、会社を立ち上げる場合は「法人」が主体となります。法律上の制度として人格を与えられることにより存在が認められ、そのためには①定款の作成や②出資の履行、③設立登記といった所定の手続を行わなければなりません。

法人の方が費用は大きい

法人の場合、立ち上げをするための手続で費用が発生します。

株式会社なら定款の認証を受けるために3万円から5万円の手数料が発生しますし、電子定款ではなく原本を紙で作成したときは4万円の印紙税も発生します。

設立登記には登録免許税として最低6万円の負担は発生します。株式会社と合同会社では「資本金の0.7%」にあたる税額が発生し、株式会社なら最低でも15万円は納付しないといけません。

費用とは少し異なりますが、出資金も納めなければなりません。昔のように資本金の最低額(数百万円以上)の定めはないため1円の資本金でも設立は可能ですが、設立当初の運転資金を確保する意味でも300万円ほどは用意するのが一般的です。

経営判断や運営の方法

個人事業主の場合、経営者自身が事業主体であり、意思決定についてもその個人が決断できます。従業員がいる場合でも会社における役員とは異なりますので、事業者1人で重要な経営判断を下すことができるのです。

法人においても1人会社であれば実質意思決定の方法に差はありません。

しかし役員が複数人存在する組織として運営する場合、代表者であっても、1人で何でも決めることはできません。株式会社だとさらに、決定事項によっては株主の意見も聴かなくてはなりません。

法人の方が意思決定は大変

1人会社を除き、法人の場合は意思決定に関与する人物が複数人登場します。それだけ慎重に経営判断をすることができ、多くの知見を取り入れながらより高度な戦略を打ち立てることができる、ともいえますが、やはり負担も増えます。

取締役会や株主総会での決議などが求められ、1つの事柄を決めるのにも時間とコストがかかってしまうのです。

比較的事業規模が小さく、スピード感を持って方針決定をしていきたいのであれば個人事業主の方が活動しやすいかもしれません。ただ、事業規模が大きくなってくると個人事業主として続けるのが難しくなってくることもあります。

税金のかかり方や税務

個人事業主の場合、売上から経費等を差し引いて算出される利益は、その個人が受け取る所得として「所得税」の課税対象になります。

一方、法人の場合は「法人税」が課税され、税率など適用されるルールにも違いがあります。

さらに、必要な税務の内容にも差があります。例えば「貸借対照表」「損益計算書」などの決算書のほか、「株主資本等変動計算書」や「個別注記表」、「キャッシュフロー計算書」など、会社の種類や株式の上場等に応じて作成すべき書類が増えます。

また個人だと住民税について自分自身で計算をしたり申告をしたりする必要がありませんが、法人は住民税(「法人住民税」とも呼ぶ。)に関しても申告作業が発生します。

法人の方が小さい税負担で済むこともある

税務の負担は基本的に法人の方が大きくなりますが、法人の方が節税効果を高めやすいです。

これには大きく2つの理由があります。

  • 経費計上できる範囲が法人の方が比較的広い
  • 所得税の方が最高税率は高い

例えば経営者個人への役員報酬や家族従業員への給与、生命保険料などを経費にすることができたり、社宅を活用して節税効果が高めたりなど、工夫できる範囲が法人の方が広がるのです。

また税率に関してですが、所得税の場合は累進課税に基づき5%~45%の税率が適用され、大きな利益が出ているほど割合大きな税負担が発生します。しかし法人税では基本的に一律23.2%の税率が適用され、規模の小さい法人においては一定額まで軽減税率が適用されます。
そのため大きな利益が発生している場合、個人事業主ではなく法人の方が税負担を小さくできる可能性が高くなります。

信用の得やすさにも差がある

「信用」は事業者にとってとても重要なものです。一般消費者、他社から信用されていないと取引を始めることは困難で、商品・サービス等の提供をすることすらできません。

信用は数値化されるものではないため個人事業主と法人の差を明確に把握することはできませんが、一般的には法人である方が信用を得やすいと考えられています。

法人だと登記が必須で存在確認が取りやすいこと、資本金が確保されていること、組織化されていて運営が比較的厳格であることなど、いくつか理由は考えられます。
また、税務の負担が大きいことから多くの法人は顧問税理士を付けています。専門家と顧問契約を交わしていることである程度運営の適正性が担保されますし、この点も法人の信用力に関わっていると考えられます。

一概に大きな差があるとは言い切れませんが、個人事業主として活動をするのか法人として活動をするのか、当記事で触れたような違いにも着目しながら判断をすると良いでしょう。

株式会社と合同会社~それぞれのメリット・デメリットとは?~

会社を立ち上げるときや、個人事業主から法人成りするとき、会社の形態を選択する必要があります。メジャーなものとしては「株式会社」がありますが、最近では「合同会社」が設立されることも増えてきています。

「株式会社と合同会社、どちらにしようか」と悩むこともあるかもしれません。このような方に向けて当記事では両社の特徴を比較し、それぞれのメリット・デメリットを紹介していきます。

株式会社と合同会社は共通点が多い

多種多様な法人があり、「会社」もここに分類されます。そして会社には株式会社や合同会社、そして合資会社、合名会社があり、それぞれに異なる性質を持っています。

例えば合名会社は社員がすべて無限責任で、会社債権者から社員が直接請求を受けるリスクを持っています。合資会社はこの無限責任社員と有限責任社員が混在する会社形態で、合同会社は有限責任社員のみで構成される会社形態です。

株式会社における社員(=株主)も有限責任しか持たず、この点においては合同会社と変わりはありません。会社債権者からの請求が出資分に制限されるため、攻めたビジネス展開もしやすいのです。

いずれも営利法人である点も共通しています。つまり、いずれの会社も「事業活動から得られた利益を社員に分配する法人」ということです。
合名会社や合資会社も営利法人です。他方、一般社団法人やNPO法人などは非営利法人に該当します。

法人税の負担も同じ

事業活動により利益が発生したとき、利益の大きさに対応する法人税等の負担が必要になります。

株式会社と合同会社における税務の内容は完全に一緒ということではなく、作成すべき計算書類等も若干の違いがあります。しかし法人税などの税金の負担に関しては違いがありません。

例えば同じ「法人」という枠組みに入る団体でも、社会福祉法人や学校法人、NPO法人などにはすべての所得に法人税が課税されるわけではありません。

これに対し税制上「普通法人」として区分される株式会社や合同会社は、すべての所得に対して課税がなされます。会社の種類が違うことによる差はありません。種類の違いによる税率の差などもありません。

作成する計算書類等には違いがある

会社として活動を続けていくには、日々の取引に関する金額の記録、計算の記録などを残していかないといけません。そこで帳簿などを作成する業務が発生し、積み上げた記録を基に決算、税務申告の作業を進めていくこととなります。

そして株式会社においては、計算書類等として次の書類を作成することになります。

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • 附属明細書
  • 個別注記書
  • 事業報告書
  • 株主資本等変動計算書

また、決算公告の義務が課されており、貸借対照表の公開もしないといけません。

一方の合同会社では「株主資本等変動計算書」ではなく「社員等変動計算書」を作成し、「附属明細書」「事業報告書」に関しては作成することが法律上義務付けられていません。
また、決算公告の義務がなく、税務の内容については違いがあるといえるでしょう。

株式会社のメリット・デメリット

株式会社のメリットとデメリットを下表にまとめました。

株式会社のメリット
社員としての立場・権限を自由に譲渡できる株式会社における社員たる地位、権限は「株式」に集約されている。原則として株式は自由な譲渡が可能で、社員になることも社員を辞めることも簡単にできる。 合同会社の場合はこれが認められない。
株式を使った大規模な資金調達ができる株式の譲渡が自由である性質を活かし、自社の株式を市場に流通させる(上場する)ことで、規模の大きな資金調達も可能となる。
知名度が高い「株式会社」という名称は一般に広く知られており、比較的信用を獲得しやすいとも考えられる。
株式会社のデメリット
役員の再任にコストがかかる株式会社では経営者である役員と出資者である社員(株主)が一致しないことも多い。そこで役員の持つ大きな権限に対する抑止として任期が定められている。 原則として取締役は2年(定款に定めて最大10年まで伸長ができる)で任期を終えることになり、再任をするには手続上の手間や費用など、コストが発生する。
設立時の原始定款に対する認証が必要会社を立ち上げるとき、どの会社でも定款が必要になるが、株式会社においてはさらに「認証」の手続が必須。 利害関係が比較的広いことから、公証役場にて、公証人に内容をチェックしてもらうことが義務付けられている。この認証手続にも費用が発生する。
決算公告が義務決算公告を行うことが法律上義務付けられている。手間と費用が発生する上、財務状況が誰でも見られるようになる。

合同会社のメリット・デメリット

合同会社のメリットとデメリットについてまとめたのが下表です。

合同会社のメリット
役員の任期がない合同会社では社員(出資者)=役員となるため、任期の定めによる抑止力をはたらかせる必要がない。そこで一定期間おきに再任をする手間も費用も発生せず、企業活動にかかるランニングコストを株式会社より抑えられる。
設立手続が簡略化されておりコストも低い株式会社に比べて設立手続が簡単。コストも低い。 例えば定款の認証が不要で、認証手数料も発生しない。設立登記にかかる登録免許税も、最低額が株式会社の半額以下である。
決算公告の義務がない毎年決算公告を行う必要がなく、手間と費用の負担が少ない。
柔軟かつ迅速な意思決定がしやすい株式会社では重大な決断を株主総会で行う必要があり、その決議要件も法律で厳格に定められている。招集手続や当日での対応などの負担も生まれる。 合同会社では社員による協議で決することができ、比較的柔軟に意思決定がしやすく、機動的に方針を決めることができる。
合同会社のデメリット
出資分を自由に譲渡できない社員間の結びつきの強さは良さでもあるが、株式会社のように譲渡がなかなかできない。
資金調達の手段が限られる株式を上場して広く投資家から資金を募ることができず、手段が株式会社に比べると少ない。
知名度が低い「合同会社」という名称に聞き馴染みのない一般消費者もいるため、信用の獲得が株式会社より難しくなるケースがある。ただし年々合同会社の件数は増えており徐々に知名度は上がってきている。
社員間の対立が与える経営への影響が大きい社員間で方針や考え方が揃っていれば迅速な意思決定ができるが、その反面、意見が合わず対立関係が強まったときの悪影響も大きい。

ここでは一般論としての特徴を紹介しましたが、重要なのは各々の事情と照らし合わせたときのメリットやデメリットです。「一般的にはデメリットとされていることであっても自社にはあまり関係がない」というケースもあります。

そこで、経営方針や、やろうとしている事業内容に最適な方を選択することが大事といえます。会社設立に強い専門家を頼りに、まずは相談をすることから始めると良いでしょう。

法人の種類と特徴を解説|営利・非営利、事業内容、課税方法の違いなど

法人には「株式会社」や「合同会社」、「一般社団法人」や「一般財団法人」、「NPO法人」など様々な種類があります。それぞれ設立要件やできる事業内容、税金の負担などに違いがありますので、何か事業を始めるときは法人の選択にも注意が必要です。

ここではその区分と、よく設立されている法人についてそれぞれの特徴を紹介していきます。

法人の種類と区分

法人には、次に挙げるもの、その他様々な種類が存在しています。

  • 株式会社
  • 合同会社
  • 合資会社
  • 合名会社
  • 一般社団法人
  • 公益社団法人
  • 一般財団法人
  • 公益財団法人
  • NPO法人 など

これらの法人を区分する方法はいくつかあります。例えば営利法人と非営利法人の違い、できる事業内容の違い、税金の課税方法違いなどです。

営利法人と非営利法人の違い

営利と非営利の違いについては「利益を求めるかどうか」「儲けを出すかどうか」といったイメージをされていることもあります。

しかし、正しくは「構成員に利益が還元されるかどうか」の違いです。

株式会社なら構成員である株主に利益が還元されるのはよく知られていることで、その性質上、営利法人に該当します。合同会社や合資会社、合名会社も同様です。

一方、構成員に利益分配を行わない非営利法人には一般社団法人、一般財団法人などがあります。一般社団法人などは非営利法人ですが、収益事業を遂行することに問題はありませんし、運営を続けていくにはある程度利益を出すことも必要です。

事業内容の違い

法人の種類によってはできる事業内容に制限がかかっています。

株式会社や合同会社であれば制限なく様々な事業を営むことが可能ですが、公益社団法人や公益財団法人のような公益法人については公益性のある特定の事業(学術研究、社会福祉事業、環境保全事業、教育事業など)を主として営む必要があります。

また、「特定非営利活動法人」であるNPO法人も当然特定の活動しか行うことが認められていません。他にも宗教法人や医療法人など、特定の事業を前提とした法人については事業内容に制限がかかります。

課税方法の違い

個人に対しては画一的に所得税が適用されます。実際に納付する税金は人により異なりますが、同じルールに基づいて課税されます。

しかし法人の場合は法人の種類に応じてルールが異なります。特に公益性のある法人については、特定の事業から得られる所得が非課税になることもあり、税負担に差が出るケースもあります。

株式会社/合同会社について(営利法人)

株式会社は営利法人の1種で、株式を割り当てられた株主が会社構成員(社員)となります。最終的な意思決定は株主総会で決せられ、取締役が会社から委任を受けて経営の役割を担います。また、株式は譲渡できるのが原則であり、社員(株主)の流動性が高いのも特徴です。

合同会社も株式会社に並ぶ代表的な営利法人です。設立件数は歴史の長い株式会社の方が多いものの、徐々に設立件数を伸ばしてきており、知名度も上がってきています。社員が有限責任であるなど株式会社との共通点も多いですが、社員の流動性がほとんどなく、人と人の結びつきが強いという特徴を持ちます。

その他、設立コスト(合同会社の方が低コスト)、役員の任期(株式会社では取締役の任期は原則2年、合同会社では制限なし)、公告の義務(合同会社には義務がない)などに違いがあります。

他方、法人税の課税については中小法人ならいずれも15%(課税所得800万円以下の部分)、23.20%(課税所得800万円超の部分)と同じ税率が適用されます。

合資会社や合名会社との違い

株式会社や合同会社とよく比較される法人に「合資会社」と「合名会社」があります。

これらは合同会社と同じ持分会社に区分される法人で、株式会社のように社員の流動性が高くありません。所有と経営が一致し、出資者が経営者として活動することになります。

ただ、合同会社とは違い、無限責任を負う社員が存在しています。会社として債務を弁済することができない場合は、社員がその責任追及を受けるリスクを負います。

  • 合資会社:有限責任社員と無限責任社員の両方がいる
  • 合名会社:有限責任社員のみで構成される

一般社団法人/一般財団法人について(非営利法人)

非営利法人の中でよく知られている法人には一般社団法人と一般財団法人がいます。

  • 一般社団法人:人の集まりが基礎となり成立する法人
  • 一般財団法人:財産の集まりが基礎となり成立する法人

どちらも社員に利益分配ができませんが、公益性のない事業ができないわけでもありません。

課税方法についても両社ともに共通しており、株式会社等とは異なる性質を持っています。非営利の事業から得た所得については非課税。その他収益事業から生じた所得については原則通りの法人税が課税されます。

なお、一般社団法人や一般財団法人は、公益認定申請を行うことで「公益社団法人」や「公益財団法人」になることができます。公益性を持たせることなど厳しい認定基準を満たし、その状態を維持することが求められますが、より手厚い税制上の優遇措置を受けることが可能となります。

NPO法人について(非営利法人)

NPO法人は非営利法人であって、社会貢献に資する特定の活動のみが認められている法人です。

学術研究や文化・芸術・スポーツに関する事業、他にも、社会教育・観光・まちづくり・災害救援などに関する事業、全20種のどれかに限って活動することができます。

これらの事業から生じた所得については法人税が非課税です。制限はあるものの、税金の面では大きく優遇されている法人です。

法人の種類に悩んでいる方は、法人設立に強い専門家にアドバイスを求めましょう。設立手続や事業内容の違い、税金の負担の違いなどを考慮して、最適な答えに近づくことができます。