役員報酬を決めるときは、法人税と所得税のバランスを考慮すること、そして適切な手続きによりこれを定めることを意識してください。
会社役員のする仕事への対価については、従業員に対する給与とは異なる取り扱いが必要ですので、問題が起こらないよう当記事にて大事なポイントを押さえておいてください。
役員報酬の大きさと税金の関係
まずは役員報酬の大きさが法人税や所得税にどう影響するのか、税負担について言及していきます。
役員報酬で法人税の負担は減らせる
会社が支払う法人税の大きさは、会社の利益の大きさに対応します。そしてこの利益の大きさは、売上と経費のバランスで定まり、同じ売上高に対して多くの経費を使っているときはその分利益は小さくなります。
役員報酬に関しては、一定の要件を満たす場合は、従業員に支払う賃金と同じように会社の税務上の経費として処理することが可能でこれを「損金算入」といいます。
損金算入された役員報酬はその他経費と同じく利益から差し引くことができますので、結果として会社の利益は減少し、法人税の負担も小さくなるのです。
しかし、節税ばかり意識していると会社の利益を圧迫してしまい、資金繰りが悪化する可能性もあります。
役員個人の所得税等がかかる
役員報酬を増やすことで会社の法人税を減らせる反面、役員個人にかかる所得税や社会保険料は大きくなってしまいます。
役員報酬は従業員が給与を受け取ったときと同じように「給与所得」として処理されますので、原則通り累進課税制度に従い所得が大きいほど大きな税率が適用されます。
そのため、会社の経営状況や役員個人の状況などを総合的に考慮し、法人税の節税効果と所得税や社会保険料の増加のバランスを考えながら適切な役員報酬を設定することが重要といえます。税金を意識するときは税理士に相談し、最適な報酬の額を検討しましょう。
金額を決めるときのポイント
役員報酬の額を決めるときはさまざまな要素を考慮すべきです。特に意識しておきたいポイントを下表にまとめました。
役員報酬の額を決めるときのポイント | |
毎月の利益や固定費の予測を立てておく | 毎月の売上予測、経費(人件費、家賃、光熱費など)を算出し、そこから得られる利益を把握。この利益に見合った金額に設定することが重要。また、固定費を差し引いた上で、会社に残る資金も考慮する。 |
法人税と所得税等のバランスを考慮する | 上記の通り、役員報酬を増やすと会社の法人税は軽減されるが、役員個人の所得税等が増加する。 法人と個人、それぞれが許容できる税負担やバランスを考慮して金額を定める。 |
業務内容に見合った金額にする | 役員の職務内容、責任、貢献度に見合った金額であるべき。同業他社や事業内容が類似する企業の役員報酬を参考にしながら、適切な金額を考えると良い。また、実態に見合わない不当に高額な役員報酬だと税務署が認めない可能性もあるため注意が必要。 |
従業員との格差への配慮 | 役員や従業員、それぞれの仕事内容に見合った金額とすることは大事であるが、あまりに役員報酬との差が大きいと従業員の働くモチベーションが下がってしまう。従業員の昇給やボーナスがない状況下で役員報酬だけ増額されていると特に反感を買いやすいため要注意。 |
会社の状況は常に変化するため、一度定めた役員報酬も定期的に見直しましょう。その際、会社の将来的な成長を見据えること、役員のモチベーションを維持することに着目すると良いでしょう。
※ただし、原則として役員報酬の増減は事業年度開始後3か月以内の改定に限って認められますので、やむを得ない事情があり期中の変更を行わざるを得ない場合は事前に税理士に相談しましょう。
なお、役員のモチベーションを上げる方法には、役員報酬以外にも「ストックオプション制度」などのインセンティブ報酬を取り入れるというやり方もあります。
役員報酬を定める手続きが必要
株式会社においては、株主総会で役員報酬を決める必要があります。所有と経営が分かれている株式会社において役員が報酬を取り過ぎると会社所有者である株主の利益が侵害されるおそれがあるためです。
とはいえ多くの中小企業では経営者である取締役が株主を兼ねていることが多いでしょうし、取締役兼株主が1人というケースも珍しくありません。その場合は法人とはいっても自分1人ですべて決めることができます。
原則は株主総会での決議
役員とは別に株主がいるとき、役員報酬を決める原則的方法は「株主総会での決議」であることを知っておいてください。
経営陣だけで勝手に決めることは許されず、株主総会を開いてそこで承認を受けなくてはなりません。まずは役員報酬に関する議案を提出し、そこで“普通決議”にて可決されれば、その金額を支給することができます。
定款を使ったやり方もある
役員報酬を変更するたびに議決を取るのが面倒だという場合、「定款」という会社の根本原則を使って少し簡略化させましょう。
例えば定款に「すべての取締役に関する報酬総額の限度額」を定めておけば、その範囲内に限り、取締役会で具体的な金額を定めることができます。取締役会とは経営陣だけでの会議ですので、迅速・柔軟に報酬について話し合うことができるでしょう。
ただしこの限度額を変更するときは「定款変更」を要しますので、株主総会の“特別決議”が必要です。“普通決議”に比べて要件が厳しくなりますのでこの点も留意のうえ、定款を活用しましょう。
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