事業の成長に伴い、個人事業主から法人への移行、いわゆる「法人成り」の検討を始める方も少なくありません。
ただし法人化には多くのメリットがありますがデメリットも存在するため、慎重な判断が必要となります。当記事で法人化のメリット・デメリットを詳しく解説し、法人化を検討する際の判断基準を示していきますのでぜひ参考にしてください。
法人化のメリット
個人事業主から法人化することのメリットは次のようにまとめることができます。
- 節税効果
- 従業員に対する処遇
- 信用力の強化
- スムーズな事業承継
それぞれの詳細を確認していきます。
節税効果
法人化によるもっとも大きなメリットの1つが「節税効果」です。
まず個人事業主の場合、事業所得に対して所得税(最高45%)と住民税(約10%)が課されます。
一方の法人は、法人税(15%~23.2%)と住民税(約7%)が基本となります。
個々の状況により異なるため一概にはいえませんが、年収が1,000万円を超えるような場合だと法人化による節税効果が期待できるでしょう。
また、法人では以下のような税務上のメリットも得られます。
- 役員報酬を経費として計上できる(ただし個人側で給与所得となります)
- 赤字を最大10年間繰り越して控除できる
- 多くの租税特別措置が活用できる
- 経費計上の幅が広がる など
従業員に対する処遇
法人化により、従業員の福利厚生をより充実させることができます。このことは、優秀な人材の確保や定着率の向上につながるでしょう。
たとえば、国民年金に代えて厚生年金が適用されることにより従業員の将来の年金受給額は多くなりますし、障害年金や遺族年金に関しても国民年金に比べると手厚くなります。
また、経営者自身の社会保険もより充実される可能性がありますが、事業主負担の社会保険料が新たに発生することから、1人オーナー会社の場合等は総合的な検討が必要となります。
信用力の強化
法人化により対外的な信用力も向上します。
取引先に対する信用力が向上することで「大手企業との取引がしやすくなる」「契約締結時の優位性が向上する」「支払条件がより良くなる」などの可能性が上がるでしょう。
金融機関からの融資も受けやすくなったり融資条件が有利になったりすることも期待できます。
スムーズな事業承継
法人化は、事業承継をより円滑に進めるうえでも重要な意味を持ちます。
まず、株式会社化することで株式の移転が容易になります。事業の一部または全部を段階的に承継することが可能となり、後継者が徐々に経営に参画すること、経験を積みながら責任を増やしていくことが実現できるでしょう。
たとえば、初めは少数の株式を譲渡し、後継者を取締役に就任させるところから始め、段々と持株比率を増やしていくといったやり方が考えられます。
また、法人化は相続対策としても有効です。
自社株の評価方法を適切に選択することで、相続税の負担を軽減できる可能性がありますし、種類株式を活用することでより柔軟な権利設計が可能となります。これにより、経営権の確保と相続税対策を両立させることができるでしょう。
加えて、法人化により事業承継税制の適用も受けやすくなるというメリットも挙げられます。この制度を活用すれば、一定条件下で相続税・贈与税の納税が猶予または免除してもらえます。
法人化のデメリット・注意点
法人化により、経営者が負担しなければならない義務や責任も増加します。以下では、法人化に伴う主なデメリットと注意点について解説していきます。
コストの増加
個人事業主が法人化する際に直面する主要なデメリットの1つが「コストの増加」です。この増加は主に以下3つの側面から生じます。
- 設立時のコスト
- 法人を設立する際、個人事業主として開業する場合と比べて多くの費用が必要となる。
- 株式会社の場合、登録免許税や定款認証費用などで、約22万円から25万円程度の費用が発生。
- 合同会社の場合でも、約10万円から11万円の費用がかかる。
- 運営にかかる継続的なコスト
- 法人化後は個人事業主だと不要であったさまざまな継続的コストが発生する。
- 特に従業員を雇用する場合、社会保険への加入が義務付けられ事業主負担分の支払いが必要となる。
- 税金関連のコスト
- 法人化により、税金面でも新たな負担が生じる可能性がある。
- 法人住民税の均等割は、赤字決算の場合でも資本金や従業員数に応じて発生する。
これらのコスト増加は、事業の成長や収益性に大きな影響を与える可能性があります。法人化を検討する際は、これらのコストについても十分に考慮し、長期的な事業計画を立てることが重要です。また、法人化のメリットがこれらのコスト増加を上回るかどうかを慎重に検討する必要があります。
事務負担の増加
法人となることで、法人特有の手続きや義務が加わり、事務負担が増大することもあります。
たとえば「役員変更の登記」は法律上の義務として遂行しなければなりません。株式会社なら取締役や監査役の就任・退任・再任などの際にはその都度法務局で登記申請を行わないといけません。
さらに定期的な株主総会の開催も必要ですし、そのときの議事録の作成、また、決算公告も行う必要があります。
合同会社として設立すれば事務負担も株式会社より軽くすることができるものの、それでも個人事業主に比べるとより厳格な事務作業に対応しないといけません。
法人化の判断基準
法人化の決断は、事業の現状と将来の展望を総合的に考慮して行う必要があります。特に着目したいポイントはこちらです。
判断基準 | 法人化を検討すべき状況 |
売上の規模 | 年間利益が1,000万円を超える。 ※この金額はあくまで目安であり、業種や経費の構造によって最適な基準は異なる。 |
事業形態 | 取引先が法人を好む業界、従業員雇用の予定がある、事業にリスクが伴う場合。 ※一方で、個人の専門性や技能に依存する業種では法人化のメリットは小さい。 |
将来の展望 | 事業拡大を目指す、資金調達の必要性がある、事業承継を考えている場合。 ※広く資金や人材を集めようとしていない、現状維持で良いという場合には法人化のメリットは小さい。 |
これらの基準を参考にしつつ、自社の状況や業界の特性、長期的な事業計画を踏まえて法人化の判断を行うことが重要です。税理士などの専門家に相談してシミュレーションを行い、より適切な判断をサポートしてもらいましょう